Deprecated: Using ${var} in strings is deprecated, use {$var} instead in /home/lanceta/pub/www.lanceta.net/lib/tpl.php on line 60

Deprecated: Using ${var} in strings is deprecated, use {$var} instead in /home/lanceta/pub/www.lanceta.net/lib/tpl.php on line 62

Deprecated: Using ${var} in strings is deprecated, use {$var} instead in /home/lanceta/pub/www.lanceta.net/lib/tpl.php on line 84

Deprecated: Using ${var} in strings is deprecated, use {$var} instead in /home/lanceta/pub/www.lanceta.net/lib/tpl.php on line 85

Deprecated: Using ${var} in strings is deprecated, use {$var} instead in /home/lanceta/pub/www.lanceta.net/lib/tpl.php on line 89

Deprecated: Using ${var} in strings is deprecated, use {$var} instead in /home/lanceta/pub/www.lanceta.net/lib/tpl.php on line 90

Deprecated: Using ${var} in strings is deprecated, use {$var} instead in /home/lanceta/pub/www.lanceta.net/lib/tpl.php on line 91

Deprecated: Using ${var} in strings is deprecated, use {$var} instead in /home/lanceta/pub/www.lanceta.net/lib/tpl.php on line 93

Deprecated: Using ${var} in strings is deprecated, use {$var} instead in /home/lanceta/pub/www.lanceta.net/lib/tpl.php on line 94

Deprecated: Using ${var} in strings is deprecated, use {$var} instead in /home/lanceta/pub/www.lanceta.net/lib/tpl.php on line 95

Deprecated: Using ${var} in strings is deprecated, use {$var} instead in /home/lanceta/pub/www.lanceta.net/lib/tpl.php on line 96

Deprecated: Using ${var} in strings is deprecated, use {$var} instead in /home/lanceta/pub/www.lanceta.net/lib/tpl.php on line 97

Deprecated: Using ${var} in strings is deprecated, use {$var} instead in /home/lanceta/pub/www.lanceta.net/lib/tpl.php on line 99

Deprecated: Using ${var} in strings is deprecated, use {$var} instead in /home/lanceta/pub/www.lanceta.net/lib/tpl.php on line 101

Deprecated: Using ${var} in strings is deprecated, use {$var} instead in /home/lanceta/pub/www.lanceta.net/lib/tpl.php on line 123

Deprecated: Using ${var} in strings is deprecated, use {$var} instead in /home/lanceta/pub/www.lanceta.net/lib/tpl.php on line 146

Deprecated: Using ${var} in strings is deprecated, use {$var} instead in /home/lanceta/pub/www.lanceta.net/lib/tpl.php on line 148

Deprecated: Using ${var} in strings is deprecated, use {$var} instead in /home/lanceta/pub/www.lanceta.net/lib/tpl.php on line 149

Deprecated: Using ${var} in strings is deprecated, use {$var} instead in /home/lanceta/pub/www.lanceta.net/lib/tpl.php on line 149

Deprecated: Using ${var} in strings is deprecated, use {$var} instead in /home/lanceta/pub/www.lanceta.net/lib/tpl.php on line 150

Deprecated: Using ${var} in strings is deprecated, use {$var} instead in /home/lanceta/pub/www.lanceta.net/lib/tpl.php on line 150
#1 わたくし、ダンケルフェルガーが怖いのです。 - ダンケルネガティブキャンペーン | Novel :: Lanceta!

#1 わたくし、ダンケルフェルガーが怖いのです。

FANBOXで頂いたリクエストがシリーズに。
ご都合主義により、フェルマイ+眷属+αがループしてます。
意味もなく変化球にしたくて、匿名希望の女性領主候補生視点になりました。
……やっぱり、物足りなかった(笑)

「エーレンフェストの領主候補生に図書館の魔術具の主を賭けたディッターを申し込む!」

今は奉納舞の講義中、小休憩の時間です。こんな時にまでディッターだなんて、ダンケルフェルガーのレスティラウト様はなんて恐ろしい方なのでしょう。

わたくしはとある負け組領地の領主候補生でございます。領地と名前についてはフェアベルッケンのご加護を賜わらせて下さいませ。
……だってこんなことを考えていると知られたら、怖いのですもの。

「ダンケルフェルガーのレスティラウト様。わたくしはシュバルツとヴァイスの主ではございません。アナスタージウス王子に奏上して下さいませ」
「しらばっくれるな! 其方が『ひめさま』と呼ばれていることは分かっている!!」
「シュバルツ達についてご存知ないようで残念です。王子に裁定して頂きましょう」

ダンケルフェルガーの方々はアングリーフとブレンヴェルメのご加護が篤すぎるあまり、アンハルトゥングやゲボルトヌーン、メスティオノーラのご加護を頂けないのだとローゼマイン様が教えて下さいましたが、本当にその通りなのですね。
図書館のシュバルツとヴァイスの主は王族の方々であり、エグランティーヌ様、アドルフィーネ様、ローゼマイン様のお三方が、上級司書が配属されるまでの一時的な協力者であることは周知されております。
わたくし共も望むならば協力者として登録させていただけるというお話でしたが、あまりにも恐れ多くてご遠慮申し上げました。
それが昨年のお話なのですが、レスティラウト様は何故、今になってこのようなことを仰るのでしょうか。それもわざわざ、王子と領主候補生が揃う奉納舞の時間に。
ローゼマイン様がレスティラウト様と共にアナスタージウス王子の元へ向かわれます。大丈夫でしょうか。
あぁ、エグランティーヌ様とアドルフィーネ様も王子の元へ向かわれました。王子はエグランティーヌ様とラッフェルを育みたいと熱望されてますから、きっと大丈夫でしょう。
レスティラウト様が大きな声で不満を申し立てておられます。ダンケルフェルガーは二位の大領地ですが、王子とクラッセンブルク、ドレヴァンヒェルを相手にあのような態度が許されるのでしょうか。
ローゼマイン様が王族の魔術具の主を務めるのは不遜でありエーレンフェストでは不足している、これだけを聞けば確かにその通りかもしれませんが、既に昨年、上級司書が主として配属されるまでの一時的な措置だとアナスタージウス王子のみならず、ツェントの裁定もありましたのに。

「ダンケルフェルガー、其方、先程から主張がころころと変わって何が言いたいのか分からぬ。図書館の魔術具については昨年、私がエグランティーヌとアドルフィーネ、ローゼマインを魔力供給の善意の協力者と認め、父上からもお許しを得ている。それも上級司書が配属されるまでのことだ。控えよ」

よろしゅうございました。いくらダンケルフェルガーとはいえ、王子相手にディッターとは言えませんものね。
しかし今後、ローゼマイン様は大丈夫でしょうか。お立場が難しくなると、わたくし共も苦しくなるのですが……

ローゼマイン様は中立中位中領地の領主候補生でありながら、凛として堂々として優雅で、わたくし共負け組の下位領地にとっては憧れの方であり、また、大変ありがたい方でもあります。年下の、まだ二年生の方に大袈裟だと思われるのは当然ですが、ちゃんと理由があるのです。
クラッセンブルクのエグランティーヌ様とドレヴァンヒェルのアドルフィーネ様の庇護を受けていらして、さりげなく負け組領地を庇って下さるのです。今まで上位からの横暴にも理不尽にも諾々と従い不満を飲み込むしかなかったわたくし共の声を拾い上げて下さるのですから、感謝と尊敬を捧げるのは当然と心得ております。
それだけでなく、わたくし共では得られない情報を教えて下さったり、流行となり得るものを共に考えて下さったり、こんなにお人好しで大丈夫なのかしらと心配になるくらいなのですが、表立って負け組領地を庇ったり傘下に加えることが出来ないクラッセンブルクとドレヴァンヒェルの代理のようなお立場なのだそうです。
お父君のアウブ・エーレンフェストは、貴族院で当時のツェントもご臨席される宝盗りディッターで大変な活躍をされた、とてもお強い騎士だと祖父や大叔父達に教えて頂きました。ダンケルフェルガーやベルケシュトックの騎士達を相手に一歩も引かず、それはそれは素晴らしい指揮官ぶりと、恐ろしいまでの戦いぶりだったそうです。
ご婚約者のフェルディナンド様も大変お強い騎士でもある領主候補生で、ダンケルフェルガーを相手にディッターで負け知らずでいらしたとか。昨年の領地対抗戦でご挨拶させて頂きましたが、凍えるほどにお美しい方でした。
そんなお父君とご婚約者がいらっしゃるせいか、ローゼマイン様はダンケルフェルガーに対して少々手厳しくていらっしゃいます。
アウブ・エーレンフェストが貴族院に通ってらした頃は、ダンケルフェルガーも武に偏りながらも礼を失することはなかったそうなのですが、フェルディナンド様の貴族院時代、政変中はゲボルトヌーンのご加護を全て投げ捨て、オルドシュネーリにご挨拶するのも忘れているような有様だったそうです。
上級騎士見習いがフェルディナンド様に付き纏ってディッターを強請ねだったり、フェルディナンド様のマグダレーナ様への婿入りを申し込んでアウブ同士で合意していたにも関わらず、卒業式前日の領地対抗戦で理由も告げずにエスコートを断ったり。当時から現在に至るまで補填も何もなく、お詫びの一言すら無いそうです。
エーレンフェストではフェルディナンド様が王族とダンケルフェルガーの不興を買ったと戦々恐々、神殿に入ってまで身を慎まれたというのに、先々代アウブ・エーレンフェストの葬儀でフェルディナンド様が神官として参列されているのを見たダンケルフェルガーの方々は「けしからぬ仕儀だ」と大層お怒りだったそうです。そもそもダンケルフェルガーのせいだというのに、何という言い草でしょうか。
ともあれ、どうやらダンケルフェルガーの不興を買ったわけではないらしいと時期を見て還俗なさったそうです。

わたくしがこんなことを知っているのも、昨年、ローゼマイン様が負け組の下位領地を招いたお茶会で教えて下さったからなのです。
中立で政変を終えたエーレンフェストは舵取りが難しいお立場でしょうが、我々負け組も非常に厳しい立場です。上位領地は須らく勝ち組ですので、どのような横暴、横車、理不尽も諾々と飲み込んで従わねばなりません。
粛清でアウブ達は最低限の引き継ぎもままならず代替わりし、多くの貴族が高みに上がり、更に中央へ優秀な貴族と魔力量が多い青色を供出いたしました。我が領地はもちろんのこと、どの領地も青色吐息です。
そんな次第ですので、昨年はお茶会にお招き頂いたにも関わらず、わたくし共はローゼマイン様に大層な嫌味をぶつけてしまいました。
ローゼマイン様はそんなわたくし共にお怒りにもならず、中立領地の現実を教えて下さいました。
アウブ・エーレンフェストのお二人いらした妹君、ローゼマイン様の叔母様のお一人はベルケシュトックに嫁いだために、叔母様ご夫婦だけでなくお従兄弟様方やそのお子様方まで一族郎党粛清されたそうです。あまりの厳しさに領主一族に嫁がれたのだと思いましたが、嫁ぎ先は上級貴族だったとのこと。
もうお一人の叔母様はザウスガースの領主一族に嫁がれたため、廃領地となる際にやはり粛清対象となったそうです。
エーレンフェストは他領と縁付く方が少ないそうですが、負け組領地へ嫁入り、婿入りした方々はほとんどが粛清されたとお話しくださいました。負け組領地から縁付かれた方は先代アウブ・エーレンフェストの第一夫人と側近の方々くらいで、先代アウブ・フレーベルタークの第三夫人の娘であるために、かろうじて粛清対象から外れたそうです。
フレーベルタークが廃領になっていれば、先代アウブ・エーレンフェストご夫妻、お子様方も粛清対象になっていただろうと……
わたくし共は大層驚きました。エーレンフェストは中立で政変を終え、順位も最下位近くから中位まで上昇しているのです。何も貢献せず、特に負担も負わず、これといった犠牲もなく、良い思いだけをしていると思っておりました。

「中立というのはどなたのお味方もしなかった、ではないのです。ツェント・トラオクヴァールにお味方しなかった、中央にとってはそれが全てでございます」

ローゼマイン様のお言葉にハッといたしました。中立の小領地ロスレンゲルが十六位、負け組の中領地フレーベルタークが十五位。中立より負け組の方が順位が高くなっています。そういうことなのですね……
そしてロスレンゲルの方も仰っていましたが、領内の魔獣討伐にも苦労する程に上級騎士を中央へ供出、神殿の青色も中央神殿へ供出して小聖杯を満たすこともままならないのが現状。中立だから貢献せず負担せずなどとはとても言えません。中小領地にとっては上級貴族をひとり供出するだけでも大変な負担です。それが領内の治安維持にも苦労するほど、中央へ騎士を送っているのです。
そして廃領地となったベルケシュトック、ザウスガース、トロストヴェーク、シャルファー、いずれの領地とも全く縁付いていない領地などありません。廃領地と縁付いた上級貴族、数は少ないながらも領主一族の側近と縁付いた中級貴族のほぼ全てが粛清されています。
犠牲がなかった領地、負担がない領地など有り得ないのですね。というより、中立領地は相対的に順位は上がったものの、王族と中央、上位領地からの扱いは負け組と同等、場合によっては更に厳しいこともあるだなんて……己の不明に恥じ入るばかりだったのです。

領地対抗戦の日、両親とわたくしが情報収集に遣わしていた文官達と見習い達が、エーレンフェストの展示区画でダンケルフェルガーの第一夫人と何やら揉めていたらしいと報告してまいりました。
またダンケルフェルガーです。かの領地はエーレンフェストがお嫌いなのでしょうか。今度は一体何なのでしょう。
シュバルツとヴァイスに関する王子の裁定に不満があり、それを立場の弱いエーレンフェストにぶつけていたのでしょうか。ツェントの第三夫人がアウブ・ダンケルフェルガーの妹君なのですから、そちらに奏上なさればよろしいのに。
レスティラウト様がそうなのですが、武を誇りながら弱い者を好んでなぶるようで恐ろしくてなりません。
ローゼマイン様は大丈夫かしらと心配しておりましたら、領地対抗戦終了後に木札が届きました。
急なお話になるけれど、卒業式の翌日にエーレンフェスト寮でささやかなお茶会を催したいというものでした。招待客の一覧もあり、中立と負け組領地です。社交期間のお茶会では女性領主候補生のいない領地は上級貴族が招かれていましたが、今回は是非、領主候補生のご参加をと添えてあります。

「お父様、お母様。きっと今日のダンケルフェルガーのお話だと思うのです。参加してもよろしいでしょう?」
「あぁ。昨年も有用な情報を下さったからな。参加してきなさい」
「参加するのは構いませんが、ローゼマイン様やエーレンフェストの身代わりにされないように気を付けるのですよ」

お母様は心配性ですね。ローゼマイン様は不義理をなさるような方ではありませんし、クラッセンブルクとドレヴァンヒェルの庇護もあります。それにおっとりされていますが、やはり騎士の血をお持ちなのでしょう。意外と正面から叩き潰すのを好まれるのですよ。
それはそれとして、ローゼマイン様のお茶会は楽しみがあります。エーレンフェストは多数の領地と食材の取り引きを始めていて、昨年に流行として出されたクッキーがアレンジされているのです。
我が領地の特産も取り入れられていて、次の領主会議では是非レシピの取り引きをと既にお願いしております。昨年は茶色くて丸い地味なお菓子だったのですが、今年は様々な形が淡い色で飾り付けられていてとても綺麗で愛らしいお菓子になっているのです。
わたくしは不安と楽しみをぜにしながら、お茶会を待ちました。

卒業式の翌日、お茶会です。ささやかと言いながら結構な人数が集まっていますが、当然でしょう。ダンケルフェルガーとエーレンフェストが揉めていたのはどの領地も知っていることです。このお誘いを断る下位領地などあるはずがございません。

「急なお誘いに応じて下さってありがとう存じます」

ローゼマイン様のお声でお茶会が始まりました。いくつかの領地の特産品を使用したクッキーが紹介され、それぞれが感想を述べ合う穏やかな談笑がしばし続きます。
お茶が淹れ替えられ、お話が本題へと移りました。

「領地対抗戦でエーレンフェストがダンケルフェルガーの第一夫人と揉めていたのはご存知でしょうが……」

やはりダンケルフェルガーのことでした。貴族院終了後にお茶会を開くくらいですから、余程のことと思われます。皆、一言も聞き逃すまいと背筋を伸ばしました。

「社交期間中にレスティラウト様から少々強引なお茶会の申込みがございまして、断りきれずに参加しましたら何故か嫁取りディッターを申し込まれました」
「はい? 嫁……と、り……?」
「わたくしのラッフェルはフェルディナンドのものですし、ツェントに婚約の承認も頂いております。大体、わたくしに申し込んだところで嫁取りディッターは成立いたしません。その場でアウブ・エーレンフェストに報告するよう、寮で待機していた文官見習いにオルドナンツを飛ばし、お断りしました。アウブ・エーレンフェストからアウブ・ダンケルフェルガーに苦情を申し立てて終わるはずだったのですが」

非常に嫌なお話の流れです。何しろダンケルフェルガーのレスティラウト様です。どんな恐ろしいお話になるのでしょうか。

「レスティラウト様はルーフェン先生を懐柔なさったらしく、エーレンフェストの騎士見習い達に『いつディッターをするのか』『嫁取りディッターとは情熱的で素晴らしい』と付き纏い、まるでわたくしがダンケルフェルガーへ嫁ぐのを望んでいるかのような仰っしゃり様で……それでいて、わたくしには何も確認なさらないのです。全く、貴族院教師としての自覚をどこに落としてこられたのでしょう。次期アウブ・エーレンフェストの指名を受け、フェルディナンドという最高の婚約者もおりますのに、わたくし、大変な不名誉を被りましたわ」

本当に恐ろしいお話になってまいりました。そして更に、と続きます。

「お父様がダンケルフェルガーと貴族院に強く抗議して下さったのですが、それを受けたジークリンデ様がまた……エーレンフェストのアウブなどよりダンケルフェルガーの次期アウブ第一夫人の方が名誉だと、何故嫁取りディッターを断るのか、ならばフェルディナンドとの婚約を解消するよう圧力を掛けると、レスティラウト様と同じことを仰ったのです」

なんて恐ろしい理不尽なのでしょう。
いえ、その前にちょっと待って下さい。
『嫁取りディッター』とはなんですか!? 情熱的!? 素晴らしい!? 嫁取りとディッターの関係が分かりません!!
ローゼマイン様は当たり前のように口になさってますが、わたくし共にはさっぱりです。教えて下さいませ。できるだけ詳しく!

「ダンケルフェルガーにしか存在しない求婚方法なのです。殿方からは嫁取りディッターと嫁盗りディッター、女性からは求婚の課題。どれも武によって勝ち取るものとされています。そしてこれらによって成立した婚約は、アウブ・ダンケフェルガーでも覆せません」

お茶会室のあちらこちらから小さな悲鳴が上がります。ダンケルフェルガーにディッターで勝てる下位領地などありません。やはり恐ろしいお話でした。

「嫁取りディッターについてですが、これは互いにラッフェルを育んでフォルスエルンテを待つばかりなのに婚約の許可が降りず、殿方が女性の親権者にディッターを申し込みます。こちらはまあ、大きな問題はないでしょう。本来ならば」

思わせぶりなローゼマイン様に、早く続きを、情報を、と皆が無言で促します。

「お父様が大層お怒りになりまして……嫁取りディッターならばレスティラウト様がアウブである自分にディッターを申し込むはずだが、そんなものはなかった、受けるべきディッターが存在しないのに圧力を掛けるなど上位の横暴を振りかざす気かと、ゴルツェのようになってしまわれて。更にはダンケルフェルガーの小僧は次期アウブの指名を受けた女性の外聞を貶める外道で、ダンケルフェルガーの慣習など他領は知るまいと騙し討ちを仕掛ける卑劣漢で、その両親であるアウブ夫妻も情報の裏取りすらしない無能だと怒鳴りつけられて」

聞いているわたくし共は震え上がりました。アウブ・エーレンフェストはゴルツェより恐ろしいのではないでしょうか。

「エーレンフェストの次期アウブを取り上げて廃領に追い込みたいのか、マグダレーナ様の件といい、ダンケルフェルガーは余程エーレンフェストが憎いらしいとお責めになりました」

エーレンフェストの事情はわたくし共もある程度教えて頂いております。
フェルディナンド様は成人してすぐに神殿で身を慎まれたためにアウブや中継ぎの教育を受けておらず、還俗後に中継ぎアウブの指名を受けて次期アウブであるローゼマイン様と共にアウブ教育を受けてらっしゃること。
お二人の他にアウブの後継になり得る方がおいでにならず他領へ出ることが出来ないが、そもそもそのつもりがないこと。そして少しお年は離れていますが、ラッフェルを共に育んでいらっしゃること。
様々な意味で、あらゆる意味で、ローゼマイン様がレスティラウト様に嫁ぐなど考えられません。

「ダンケルフェルガーが始末に負えないのはここからです」

まだ恐ろしいお話が続くようです。

「ジークリンデ様が『ならば嫁盗りディッターを』と……」
「その嫁盗りディッターというのは嫁取りディッターと何が違うのでしょうか?」
「最も恐ろしいディッターのひとつです。女性が婚姻を望んでいないのに武力で奪い取るため、殿方が女性の親権者に申し込むものです。どちらの陣営にも高みに上がる者が大勢出るのが当たり前なのですが、ダンケルフェルガーでは挑まれたディッターは須らく受けますので、お断りすると負けを認めたと見做されます」

今度こそ、大きな悲鳴が上がりました。そしてダンケルフェルガーの横暴と理不尽に非難の声が上がります。
だってそうではございませんか。嫁取りであれ嫁盗りであれ、殿方が女性の親権者に申し込むのでしょう?
それをレスティラウト様はローゼマイン様に申し込み、次はジークリンデ様がアウブ・エーレンフェストに申し込んだのです。ダンケルフェルガーは自領の慣習を曲げてまで何を考えているのでしょう。

「ダンケルフェルガーの方々の行動の理由として、レスティラウト様の第一夫人候補に不自由しているからではないかという情報もあります。皆様もお気を付けくださいませ。これから入学される方にも十分気を配って差し上げていただきたいのです」

また新しい情報です。恐ろしい事態を避けるために、しっかりとお聞きして両親にも報告せねばなりません。
レスティラウト様はダンケルフェルガーの次期アウブですから、本来ならクラッセンブルクのエグランティーヌ様、ドレヴァンヒェルのアドルフィーネ様が第一夫人の候補となるでしょう。ですが、お二方共に王子との縁組が決まっております。
次に考えられるのはアーレンスバッハのディートリンデ様ですが、何しろあの方ですから……
そして呆れたことに、ジークリンデ様はレスティラウト様の第一夫人候補から外しているディートリンデ様をフェルディナンド様の第一夫人として迎えれば、ローゼマイン様をダンケルフェルガーに嫁がせても問題ないだろうと、大問題しかない発言をなさったそうです。なんて無茶なことをと皆でげっそりしてしまいました。
どうしてその様な無体を仰るのかと声が上がりましたら、更に詳しく教えて下さいました。
何でも、ダンケルフェルガーのアウブは第一夫人に他領の領主候補生を迎えるのが慣例なのに、現アウブは政変の煽りで他領から迎えることが叶わず、第二夫人として娶った自領の上級貴族であるジークリンデ様を第一夫人に直したそうです。他の夫人も自領の方しかおいでにならず、現在、ダンケルフェルガーのアウブ一家は他領からどう見えるか、他領ならどう考えるか、そういったことが全く分からないのだそうです。
それにしたって、レスティラウト様は第二夫人となる自領の方と婚約されたばかりです。その方との星結びもまだなのにローゼマイン様に親子揃って不躾な求婚をするなど、なんて恐ろしくて恥知らずな領地なのでしょう。
女性を、それも領主候補生をディッターの景品だとでも思っているのでしょうか。第一夫人のジークリンデ様までがそんな調子ではどうしようもないではありませんか。
大領地ダンケルフェルガーの常識だからといって、ユルゲンシュミットの常識ではございません。今からでもどなたかアウブ・ダンケルフェルガーに第一夫人として嫁いで頂けないでしょうか。恐ろしすぎます。

「騎士課程のルーフェン先生にも警戒してくださいませ。騎士見習いの戯言、特にダンケルフェルガーの者が言うことは鵜呑みになさいます。それがディッターに絡むことなら、中央と大領地の圧力であらゆる理不尽も横暴も良しとされます。いえ、理不尽でも横暴でもないと信じてらっしゃいますね。ディッターを至上の喜びとされていますから。ダンケルフェルガー以外にはディッター費が無いことをご存知ないのでしょう」
「……ディッター費、ですか?」
「ダンケルフェルガーには各家庭から領の予算に至るまで、ディッター費という費目があるのですよ……」

ぞっと身震いいたしました。そんな予算、あるはずがございません。ダンケルフェルガーと一緒にしないでくださいませ!

「あの、ローゼマイン様とエーレンフェストは大丈夫なのですか?」
「ふふ。お父様が先代アウブ・ダンケルフェルガーとそのご兄弟に激烈な抗議を送り、そのままツェントに面会を申し込み、エーレンフェストを廃領にするのが中央と大領地の望みかと確認に赴かれました」

……アウブ・エーレンフェストは貴族院時代に『エーレンフェストの金獅子』と恐れられたそうですが、ご高齢になった今でもお変わりないのですね。フェルディナンド様も『ディッターの魔王』と恐れられていたそうですし。
中領地としては最低辺だった当時から突出する方々がいらして、本当にどうして片田舎だの底辺だのと笑い者になっていたのでしょう。ローゼマイン様も最優秀をお取りになるし、ヒルシュール先生も優秀な研究者ですし、不思議な領地です。
それはさておき、ダンケルフェルガーでは次期アウブの第一夫人候補に不自由しているので気を付けましょうと皆で対策を確認いたしました。
ジークリンデ様もレスティラウト様も次期アウブ・エーレンフェストのローゼマイン様に筋の通らない求婚をなさる方々です。たとえ望まれても嫁ぎたくありません。これは下位領地の一致した意見です。
ダンケルフェルガーと縁付いたところで、わたくし共は負け組の下位領地です。どんな無理難題を課せられるか分かったものではありません。
ダンケルフェルガーの方から求婚関係のディッターを申し込まれましたら、親権者に申し込んで正式な手順を踏んで頂くようお願いした上で返答は持ち帰るとせねばならないでしょう。
そして速やかに自領のアウブに報告し、挑まれたのが嫁取りディッターであれば『娘のラッフェルはレスティラウト様の物ではないのだが、どのようなブレンヴェルメの思し召しか』とダンケルフェルガーに連絡していただかねばなりませんし、嫁盗りディッターならば『アウブ・ダンケルフェルガーも承知の上でアウブである自分に申し込みがないのか』と確認していただかねばなりません。
うっかりディッターを受けてしまったら、以降、誰に申し込んでも諾と言わせさえすれば嫁取りや嫁盗りが成立してしまうという悪夢の前例が出来てしまいます。不用意に前例を作ってしまった領地は他の領地から深く恨まれるのは間違いありません。
貴重な騎士を高みに上げるわけにはいかないのです。何より、ディッターの景品としてやりとりされるなど全力でお断り申し上げます。
エーレンフェストの方々の様に抗議は出来ませんが、せめてアウブ同士で確認して頂きましょうと皆で頷き合いました。

「女性が求婚の課題を得る方法もお伝えしておきますね。女性が殿方に足払いを掛けて押し倒し、場合によってはメッサーを突きつけて課題を要求します。この課題を達成されてしまうとどうやってもお断りできませんので、ダンケルフェルガーの女性と縁付きたくない方は達成不可能な課題を用意する必要があります。マグダレーナ様もツェントから課題を頂いたようですよ」
「お断りできないのですか……」
「ええ。ですから、達成不可能であることが重要になります。ダンケルフェルガーの力で自領の順位を三つばかり上げてもらう、という課題はいかがかしら?」

ローゼマイン様がいたずらっぽく仰っしゃいました。流石です。達成不可能な課題に間違いありません。先程、不安げに零された方も笑顔になりました。
お茶とお菓子が淹れ替えられ、恐ろしいお話はひとまず終わりです。お断りすることが可能な殿方達が『自分ならこんな課題を』と少しばかり笑いを交えたお話をして、お茶会はお開きとなりました。

寮に戻ると両親が待っていて下さいました。本当に恐ろしいお話でしたので、早くお話することが出来て少し安心いたします。

「成る程……有り難い情報を頂けたな。領主会議では取引枠とは別に手土産を用意せねばなるまい」
「レスティラウト様は婚約されたばかりだというのに、次期アウブの指名を受けて婚約者までいる方に醜聞になりかねない求婚をなさるなんて、相当お相手にお困りのようですね」

既に十分に醜聞だと思います、お母様。

「お話を伺う限りでは、レスティラウト様は次期アウブとしていささか不安があるため、優秀なローゼマイン様を第一夫人にお望みとも取れます。次期アウブの女性であれば、少々問題のある殿方でも御せるだろうという思惑があるのかもしれません」
「下位領地の間でもレスティラウト様の評判はあまり良くない。成績は優秀でいらっしゃるが、お振る舞いがな。まるで王族より上位であるかのようだと囁かれている」
「はい。今年も奉納舞の時間にアナスタージウス王子の裁定に異議を唱えてらっしゃいました」
「それは勝手にしてくれれば良いのだが、いくつかの小領地の騎士見習いを常に引き連れているだろう? 巻き込まれる領地はたまったものではないぞ」

本当にダンケルフェルガーの方々は何をお考えなのでしょう。マグダレーナ様がツェントの第三夫人ですから外戚ではありますが、王族からダンケルフェルガーに降嫁なさったわけではございませんし、先の第三王子の遺児であるエグランティーヌ様でさえ王族の方々には慎ましくていらっしゃるのに。

「しかし、ダンケルフェルガーは何故そこまでエーレンフェストに対して居丈高になれるのだ? 未だフェルディナンド様に対する謝罪も補填もないのだろう? それでローゼマイン様を寄越せと言ったところで、再び領主候補生に要らぬ瑕疵を付けられると警戒されるのは当然だろう」
「かの領地は昔からその様な所がございましてよ。政変当時、エーレンフェストもロスレンゲルもダンケルフェルガーと関わりが深かったのに、勝ち組へのお誘いがなかったのですもの」
「かつて打ち捨てておきながら今更縁付くのが名誉などと、全く大領地というものは……」
「それにしても重要な情報を頂けましたね。騎士見習い達にもダンケルフェルガーからのディッターは軽々しく受けぬように周知徹底せねばなりません」
「あぁ。ジークリンデ様とレスティラウト様のなさりようが事実であれば、どのディッターが娘を奪い取るものか判断がつかぬ」
「領主候補生の婚姻は政略でございます。それを相手領地のアウブに打診もせず、自領の慣習を曲げてまでなし崩しに優秀な方を得ようとするなんて、本当に恐ろしい領地ですこと」
「……恐ろしいですが、それ以上に恥知らずではないでしょうか」
「クッ、ハハハ! 我が娘も言うようになったものだ! その調子でディッターを申し込まれても断りなさい」

いけません、つい本音が漏れてしまいました。ですが、必ずお断りしてみせます。
悪夢の前例を作って皆様に恨まれるのは絶対に嫌なのです!

:あとがき:

「ダンケル(主に某次期アウブ)厳しめ」というリクエストを頂いて書いたもの。
流行と情報は上から流すもの。だったら、ひっそりディスりたい時は?
下からヒソヒソやればいいよね! ダンケルのディッターに迷惑かけられてる領地も多いだろうし、下地は十分じゃね!?
……と、なりました。
そして色んなディスり方したい(笑)ので、ループしております。ご都合主義。

ループn回目以降、ジルに見切りをつけてボニをアウブに据えてる前提でヨロです。
ざっくり設定が初出時とちょっと変わりまして、ロゼマはボニ爺の養女エグラン方式ではなく実子になっちゃいました。
ループメンバーズれたっぴょが「養子縁組だと解消しろって言われるから実子にしとかないとね」と気付いたので。
ボニの夫人達、登場しないのでちゃんと調べてなかったんだが、マインがロゼマに変身する頃なら存命の可能性高めみたいだし。

感想などは pixivFANBOX(わたくし、ダンケルフェルガーが怖いのです。)へお願いします。言葉遣いがちょっとクドいかなと感じたので、それを微調整したくらいです。
支援者限定。